ニット生地の名産地として知られる和歌山県。戦後まもなく輸入された吊り編み機がこの地に根付き、以来、独自のものづくり文化を築いてきました。
今回私たちが生地の依頼をしたのは、和歌山県の一角に工場を構える老舗のニッター。1957年に創業し、約70年ものあいだ、吊り編み機のみを使いニット生地を生産してきました。現在でも、工場内に並ぶ数多の吊り編み機をわずか数人の職人が動かし続けています。

このニッターでは「本当に良い生地とは何か」という問いに対しての強い信念が、創業当初から一貫して存在しています。
効率化が進んだバブル期、多くの工場が高速のシンカー編み機へと移行していくなかでも、吊り編み機にしか生み出せない生地の魅力と、その構造に秘められた可能性を信じ、生産体制を継続しました。さらに、他社が手放した吊り編み機を全国から集めることで、継続可能な環境づくりと独自技術を深めていきました。その生地に対する探究心は、現在も新しい編み方や生地開発へと受け継がれています。

吊り編み機は、独自の風合いや柔らかさを生む一方で、生産効率やスピードを重視する現代の大量生産には見合わない編み機です。
吊り編みとは、機械がゆっくりと回転しながら、生地を筒状に一段ずつ丁寧に編み上げていく特殊な構造を持つ編み方。1時間に1メートル、1日にしてわずか10メートルという生産スピードで、現代の主流であるシンカー編み機の約10分の1と言われています。

しかしその丁寧さこそが吊り編み特有の生地が生まれる理由でもあります。1600本にものぼる針を使い、糸を置くように時間をかけて編み上げることで、ふっくらと柔らかく、伸縮性に富んだ独特の生地が生まれるのです。
速度や量を追い求めるものづくりでは決して辿り着けない唯一無二の生地。その存在が、今もなおこの機械と向き合い続ける職人たちを動かしています。

この場所には、受け継いできたものを大切にしながらも未来を見据えるものづくりの姿勢があります。旧式編み機や古いパーツをメンテナンスしながら丁寧に使い続ける一方で、新しい素材や編み方を模索しながら新しい生地作りを探求し続けています。
ただ、その根本に変わらずあるのが「本当に良い生地とは何か」という問いに対する強い信念です。
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