生産背景:静岡県「遠州コール天 / 加工」

生産背景:静岡県「遠州コール天 / 加工」

今回の生産背景の舞台は、静岡県磐田市。遠州地域の中でも、国産コール天の仕上げ加工を担ってきた現場です。

この地域は古くから水に恵まれ、繊維産業に必要な環境を備えてきました。コール天の仕上げにおいても水は欠かせない資源であり、その土地の特性を生かしながら加工が続けられています。

加工を行うのは、創業から90年近く続く加工場です。国産生地の需要減少、働き手や後継者の不足を背景に、遠州でコール天の仕上げを担う工場は少しずつ減少。現在残っている1社のみで、生産を支える重要な役割を担っています。

ここで行われているのは、コール天特有の柔らかさや滑らかな手触りを整える加工。海外のコーデュロイとは異なるその質感は、織りやカットだけで完成するものではなく、仕上げの段階でどう生地に負荷をかけ、整えていくかによって大きく左右されます。

まず行われるのは、大量の水を使った揉み込み。一日に使用する水の量は、最大300tにも上ります。

数百、数千メートルにもつながれた生地を流し、水槽に入る布の量をその都度見極めながら、叩き、水に潜らせていく。単に洗うのではなく、生地に合わせて水の入り方や揉まれ方を整えることで、生地に残る硬さを均一に少しずつほぐしていきます。

次に行われる毛焼きでは、最高800℃の火を使い、表面の余分なケバを一気に焼き落とします。火を通すことで、触れたときの引っかかりを抑え、滑らかな手触りへと近づけていく工程です。

重要になるのは、バーナーの温度、火と生地の距離、生地を送るスピードの調整です。火が弱ければケバは残り、強すぎれば生地に余計な負荷がかかる。一度限り、その一瞬に対して、生地の性質と状態に合わせて複数の条件を合わせる、職人の経験からなる判断力が必要になります。

再び水で揉み込み、最後に行われるのが減量加工。エアタンブラーの中で、風速300m/sの強い風を当てながら生地を動かすことで、余分な糸を取り除き、ふくらみと柔らかさを出していきます。

ここでも、生地の状態に合わせた調整が必要です。回しすぎれば糸が抜けて薄くなり、足りなければ硬さが残る。数値やマニュアルだけでは決めきれない加減を、職人の目で見極めていきます。

コール天の加工という工程には、水、火、風の資源を使い、手間と時間が惜しみなくかけられています。どの工程も単独で完結するものではなく、前後の加工とつながり初めて、国産コール天としての生地になります。

海外のコーデュロイとの違いは、見た目の印象だけで語れるものではなく、その差は、生地の質を追求した歴史と工程の積み重ねが生み出しています。

時代の流れとともに遠州のコール天加工を取り巻く環境は大きく変わりましたが、その生産背景は今も一つの工場の中に残り、受け継がれています。

遠州でつくられたこの生地を「コール天」と呼ぶ理由。それは製法や質感の違いだけでなく、この地で重ねられてきた歴史への敬意と、つくり手のこだわりがあるからです。

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