今回の生産背景の舞台は、広島県福山市にある染色工場。福山は江戸時代から備後絣(びんごがすり)の産地として発展してきた地域で、織りと並行して染色技術も蓄積されてきました。この地域で1925年に創業した工場が、今回の生地の染色を担っています。
100年続く歴史背景がある中で現場で問われるのは、従来の方法を踏襲することではなく、今の生地に対して必要な更新を続けていくことです。

工場は約50,000㎡の広大な敷地を持ち、前処理、染色、仕上げ、検査を一貫して行っています。この規模や設備に対し、現場に立つ職人は約30名ほど。生地の質を高めるための専門的で技術を伴う調整が必要な工程において、単に大量の生地を回すための増員ではなく、生地のクオリティを高めるための最適な職人配置が前提となっています。
染色で重要なのは、色を入れる前の前処理です。毛羽や糊を取り除き、蒸し等を重ねながら、生地を均一に染まる状態へ整えていく。この前処理には開始から完了まで1時間以上を要し、最終的な染まり方を左右する土台になります。染色品質は染める瞬間だけで決まるものではなく、その前段階をどこまで整えられるかが大きく影響します。

それでも、条件を揃えれば常に同じ結果になるわけではありません。原反ごとの個体差に加え、機械のわずかな傾きやロール角度の変化でも、生地の表情は揺れます。そのため現場では、日常的な点検、部品交換、設備の改造を続けながら、その都度設定を調整しています。
工程管理だけでなく、機械の状態を維持し、必要に応じて手を入れるところまで職人が担っています。この工場の技術は、設備の新旧ではなく、機械で処理する部分と人が判断する部分を切り分けながら精度を保っている点にあります。

100年続く技術には、既存の踏襲のみでは成り立たず、生地のクオリティのために必要な更新をし続けることが前提にあります。古い設備を使い続ける判断も、新しい設備を導入する判断も基準は同じで、「良い生地に必要か」という問いの上に置かれています。
一世紀前から始まった創業者の想いは、いま現在でも現場の意思として残っています。
