今回取材したのは、「8.5oz Okayama Back Satin Mods Coat」が織られている機屋。デニム産地として有名な岡山県井原市にある、数少ない白生地専門の機屋です。昭和30年代に創業し、現在は2代目がものづくりの現場を支えています。
この地域では、かつて十数軒あった白生地を織る工場も、今ではこの一軒のみ。デニム生地が主流となる土地で、積み上げられてきた技術と文化の一端を担っています。
工場には、数名の職人をもとに織機が絶え間なく稼働していて、一本の糸がやがて一枚の生地に変わっていく光景を目の当たりにしました。

今回採用しているバックサテンは、ほどよい厚みとやわらかさを備えていて、着るほどに肌になじみ、風合いが増していく生地。 穏やかな表情を持ちながらも、そこには手間と技術が織り込まれています。
織機に糸を通していく準備工程では、熟練の職人による手作業が欠かせません。 「綜絖通し」と呼ばれる工程では、約7200本におよぶ糸を順序通りに穴へ通していきます。手間や技術が必要な作業で、場合によっては1週間ほどかかることもあります。

織りの工程に入ってからも職人の手は欠かすことはできません。糸のほつれや切れといった細かな不具合が発生することもあり、そのたびに機械を止め、原因を見極め、一本ずつ糸を整えていきます。
また、1反の生地を織り終えたあと、次の反へとつなぐ工程も重要。糸の張りや動きを調整しながら織り続けるためには、経験と感覚の積み重ねが求められます。こうした工程を支えているのも、現場の職人たちです。

時代とともに生産の効率化が進むなかで、訪れた機屋では変わらず、人の手による工程が大きな役割を担っています。生地づくりの本質は、機械だけで完結するものではないということを、実際に現場に足を運んだからこそ感じることができました。
柔らかな生地からは簡単には想像できない、工程の積み重ねと職人の技。 その背景を知ることで、この生地が持つ深みの理由を知ることができたように思います。 手に取ったとき、そうした奥行きが少しでも伝わっていくことを願っています。
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